地域に根差した保育園
敷地は久慈川の北側に位置した古くからの農村集落内にあり、屋敷林や田畑に囲まれた日本の原風景のような環境に立地しています。
南高野保育園の設計にあたり、地域の暮らしと自然豊かな環境に根差した保育園づくりをテーマとしました。農家住宅に見られる分棟型の配置(門、母屋、蔵、納屋等)を踏襲し、保育園と学童クラブを別棟とし、景観的な連続性を創出することと、それぞれが目的に沿った機能的な利活用をはかれることを意図しました。
地産地消による園舎づくり
園舎は木造とし、材料となる木材は茨城県北部の杉・檜を使用しています。木材は伐採から加工(集成材)・組み立(プレカット)までを一貫して県内で行いました。県内で完結することで山の生態系の維持、輸送コスト、建設コスト、輸送エネルギー、二酸化炭素排出等の抑制や、地域経済の活性化など様々な面でメリットが生まれました。
また、子供たちにとっては乳児から幼児期に、地元茨城の木に触れて生活する経験は未来へ向けてかけがえのない財産となることと思います。
子供にやさしい園舎
園舎のプランは地域の気候や生活の知恵からなる、農家住宅の様式(土間・縁側・深い軒下等)を応用して、保育室⇒縁側⇒テラス⇒園庭と連続させました。風が流れ、陽の光を取り込む明るく健康的な室内となり、縁側空間はランチやおやつの場所として活用され居心地の良い場所となりました。
また、連続する保育室は建具で仕切っています。発表会や行事の際は建具を引き込んで、大きな空間として使い、年齢別の活動やお昼寝の際は建具を閉じて使うなど、様々な保育の場面に呼応することが可能です。最近、木育という言葉を耳にしますが、床には桧材、壁・建具には杉材を用いることで、木の温もりを直接肌で感じられ、化学物質の無い素材は子供たちの身体に安全で安心な環境となっています。
夢をかたちに
この保育園の顔となる玄関ホールは、園長先生のビジョンを具現化した空間です。塔をイメージした天井の高いホールは、園のシンボルの“おひさま”と“虹”を表現しています。壁には七色のガラスを散りばめ、トップライトからは陽の光が差し込むなど、色彩がハーモニーを奏でる幻想的な雰囲気が広がっています。毎日、登園する元気な子供たちを、優しく出迎えてくれます。
CASE 08
南高野保育園 木造平屋建新築工事 日立市 2017

子どもたちは、教室からゆったりとつながるウッドデッキを抜けて園庭へ移動。お日様の下であたたかい木の園舎に見守られながら、元気に走り回ります

玄関は園長先生の思いをデザインしました。塔をイメージした『高い天井』、天井には園のシンボル『おひさま』、まわりには『虹』を表現しました。子どもたちをあたかかく、元気に迎えます

3歳児・4歳児保育室/朝の読み聞かせの時間。収納上部に設けたロフトは普段と違う高い目線が体感できる小さな空間です。様々なシチュエーションの中で子どもたちの居場所になります

3歳児・4歳児保育室/体育の授業。廊下の引き戸を閉めて室内の温熱環境を調節します。夏は適度な冷房で熱中症を防ぎます

2歳児保育室/和室は引き戸を開けて大空間に。マット運動など思いっきり体を動かすことができます

0・1歳児保育室/片時も目の離せない0・1歳児たちのスペースは可動式の柵が大活躍。用途に応じて棚の位置を移動し部屋の広さを調節します

おいしい給食の前は、きちんと手洗いを。手洗に集中出来るように落ち着いた、シンプルなデザインとしました

木の香りとお日さまの光に包まれながら食べる給食。子どもたちの笑顔があふれる時間です

保育室と一体でも利用できる広縁。雨の日でも子どもたちがのびのび走り回れます

太陽と虹が印象的なホールギャラリー。子どもたちが出合い集う場です

園児トイレと沐浴室はトイレに行くのが楽しくなるように暖かな色彩の木材を用いて優しい空間に

おうちの人がお迎えに来るまで園庭ですごす子どもたち

外観パース
南高野保育園 園長 長谷川 小夜子
「夢の種」
無認可保育園として44年。園舎も震災でかなりのダメージを受け、建て替えをしたいと思っていたところに、思いもかけず日立市子ども施設課より「南部地区の待機児童解消のために、認可園を設立しませんか?」というお話をいただいたのが二年半程前のことでした。
保護者の方たちや職員に相談をしてみると賛成してくださる方が多く、社会福祉法人の設立と新園舎の建設と認可保育園の開園という大きな目標に向けての一歩を踏み出すこととなりました。
園舎に臨むイメージは家庭的な温かい雰囲気が感じられ、のびのびと過ごせる心地よい場所であり、みんなが元気になれる我が家のような建物です。以前から気になっておりました吉田良一さんが設計された他園を見学させていただき、人に優しい温もりのある木造の園舎にすっかり魅了され吉田建築計画事務所さんにお願いすることに決めました。
吉田さんの「県材をできるだけたくさん使って、この地域になじんだ建物にしましょう」というお話の通り、田園風景がひろがり、青空と連なる山並みの壮大な景色を背景に建つ茶色と白のコントラストが美しい木造の園舎は、地域の方たちや保護者からも大好評です。開放的な空間は室内でもお日様や風が感じられ、地域の自然と触れ合いながら過ごす園舎での毎日は子どもたちの心を元気に豊かに育てています。「園から帰ってきた子どもから良い木の香りがして、しばらくだきしめていましたよ。」と、お母さんからのお話も嬉しく思いました。この園舎でのたくさんの出会いを通して心に巻いたたくさんの「夢の種」が大きな木に育ち花や実となりますようこれからも応援していきたいと思っています。
所 在 |
茨城県 日立市 | |
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敷地面積 |
1434.11㎡(433.82坪) | |
建築面積 |
511.94㎡(154.86坪) | |
延床面積 |
482.57㎡(145.98坪) | |
構造・用途 |
木造平屋建て・保育園 | |
竣 工 |
2017年 4月 | |
設 計 |
㈲吉田建築計画事務所 | |
担 当 |
吉田・恩蔵 | |
その他 |
学童クラブ棟
建築面積 |
66.40㎡(20.08坪) | |
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延床面積 |
121.56㎡(46.85坪)(1F:60.78㎡ 2F:60.78㎡) | |
構造・用途 |
木造2階建て・学童クラブ |