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「茨城の古民家再生展」終了し、思うこと。

家族の写真をみるかのように、一枚一枚熱心に

 「茨城の古民家再生展」―震災を乗り越えて茨城の原風景を未来へつなぐ―を開催して、お陰様で会期中は県内各地より500名を超える方々にご来場頂き、御高覧を頂くことができました。心より感謝申し上げる次第です。
 今回の展覧会を振り返り印象的だったことがございます。それは来場者の多くの方々が、まるで家族の写真でも見るかのように、熱心に一枚一枚私たちの古民家再生の事例写真をご覧頂いている姿でした。
 太い大黒柱や煤けた丸太の梁、広い土間や縁側の写真を見ながら、子供の頃に住んでいた我が家の様子や当時の思い出、昭和から平成と大きく変わった地方の暮らしの様や、黒い板塀に茅葺の屋根など故郷のなつかしい元風景、壊してしまった古民家への後悔の気持ちなど、様々なお話を聞かせて頂きました。
 また、現在古民家に住んでいて残したい気持ちもあるが、どのようにすれば良いのか分からない。息子夫婦とのコンセンサスが難しい。誰も住んでいない古民家を所有しているが、何か使用目的がないか、など具体的なご相談もたくさん寄せられました。

急激な社会構造の変化の中で失われていくもの

 今、日本は昭和30年代から平成初期のバブル崩壊までの約40年間における、急激な社会構造の変化に、ひずみをきたしているように感じています。かつての村社会(共同体の社会)から、経済至上主義社会(個人主義社会)へと急激に変化したことで、それまで何百年と続いてきた先人たちとのつながりや、地域の風土や習慣との関係がぷっつりと途絶え、方向性の見えない社会となっています。景観においても地味豊かな茨城の農村風景の中に、いつ頃からか工業製品(プレファブ)としての都市型住宅が普通に建ち始め、どこか違和感のある風景となってしまいました。人が成長していく過程において、幼児期の記憶にある懐かしいと思える原風景の存在は、とても大切なことと言われています。茨城の村や町がそれらを失う事の意味は計り知れない大きな事だと思います。

古民家再生展会場の様子

N邸。寄棟造りの屋根に、白い漆喰と黒く塗られた簓子下見板張りの外観

I邸。壁の漆喰と黒のコントラストが美しい 応接室。天井に隠れていた梁を現し、 古民家らしい風情ある空間に

すまいと共に、昔の気持ちを繋いでいく仕事

 私たちは昨年、1000年に一度という未曾有の大震災に見舞われました。大自然の猛威のまえに、現代社会の脆さや弱さを痛感し、改めて地域の人と人のつながりや先人たちの教えの大切さを知る事に直面しました。便利さや快適さを追い求めた裏側で、現代の私たちが見失ってしまった、かつての日本人の暮らしや文化を、もう一度再構築する必要性を今やっときづきはじめたのではないでしょうか。過去から現在そして未来へと地域の時間軸を繋げて行く、そうした取り組みがこれからの日本の未来にとって、とても必要なことだと感じます。

 そうした社会背景の中で現存する古民家は、先人たちの暮らしの知恵の宝庫であり、地域の気候や風土と共に共生してきた、地域の象徴的存在だと言えるでしょう。その古民家を残して現代の暮らしに合った住まいへと再生することは、自然豊かな地方の美しい佇まい(景観)を残すことや、サスティナブルな社会の実現と共に、時間や世代を超えた人と人との繋がりや、地域の歴史や文化を後世へと伝える為の大きな役割を担っています。併せて使われている良質な地松や欅、栗等といった地域材は二度と手に入れることができない貴重なものであり、また当時の大工技術はじめとする建築技術も今となっては貴重な伝統文化に値する物ばかりです。

第1回 茨城の古民家再生展チラシ

N邸。手斧削り(ちょうなけずり)の美しい梁組みが目を引く土間 空間。丸い明かり取りをしつらえた衝立、木製のテーブル、 丸太椅子が、洗い出しの土間と調和しています

心豊かな、文化的な暮らしを求めて

 今回の展覧会では、東日本大震災を乗り越えて建つ、大切な地域の資源である古民家を、次世代へと住み繋いで行くことの重要性やその意義を、これまでの事例を基に多くの方々に知っていただき、茨城県内に残る古民家を1軒でも多く残したい、同時に茨城の美し原風景を残したいという思いから、今年の初め頃に構想しました。先輩建築家であり同じ考えで活動されている金澤重雄氏と共に約半年の準備期間をおいて開催にいたりました。

 会期中に県内各地からご来場いただいた方々と、古民家の魅力について様々なお話をさせて頂き、改めて古民家を愛する人たちの多さに、正直、嬉しい驚きを感じました。そしてまだまだ少しずつでは有りますが、これまでの経済優先型のグロ-バル社会を目指す方向から、心豊かな文化的な暮らしを求めるロ-カリティな社会へと、回帰する思考へ変化し始めていることを実感しました。

 私たち地方の建築家は、人工物としての個々の建物のデザインから、自然の景観を壊さない、景観の一部としての意匠性を大切にする必要があると思います。その為に足元の地域と真剣に向き合い、地域とは何かロ-カリティとは何か景観とは何かを考え、その特性や魅力を如何に建築としてのハ-ドまたソフトの両面で提案して行くことが問われています。本展覧会を通じて、古民家を再生し茨城の原風景を残していくことは明るい未来へ向けて、大切なキ-ワ-ドであることを改めて実感することができました。

 最後になりますが、ご来場いただきました方々はじめ会場をお借し頂いた(財)常陽藝文センタ-様の関係者各位、取材記事を掲載頂いた茨城新聞社様他、ご協力頂きました方々に深く感謝を申し上げます。

S邸。吹き抜けの天井 に200年の時を経て古材の梁がよみがえりました。中央の大黒柱と古材の梁がダイナミックな 空間を創出しています。小屋梁は別の部位から移動して、既存建物より数を増やしました

カフェハナナ。再生後、建物自体の素朴な印象は残し、2階の窓に木製の格子を設けました。店内入口の赤い扉とピザ窯がアクセントとなっています。鮮やかなグリーンガーデンのアプローチが店内へいざないます

古民家再生コラム
写真 風景と暮らしを繋ぐ外構デザイン

歴史ある街並みの連続性を持つことが、その土地特有の美しい情景を残すことに繋がります。個人のライフスタイルを満足させること、誰もが美しいと思える伝統ある風景を創ることの両立が、より魅力的な民家再生つながるとともに、次世代へ継承するポイントになると思います。

写真 「茨城の古民家再生展」終了し、思うこと

東日本大震災を乗り越えて建つ、大切な地域の資源である古民家を、次世代へと住み繋いで行くことの重要性やその意義を、これまでの事例を基に多くの方々に知っていただき、古民家を1軒でも多く残したい、茨城の美し原風景を残したいという思いから展覧会を行いました。

写真 「茨城の古民家再生展」終了し、思うこと

古民家を次の世代へと繋ぐことは、歴史ある町並みを繋ぐこととなり、これからの豊かな地域づくりにとても大切なことです。古民家の魅力を感じつつ、家族3人が思い思いにすごせる居場所づくりを大切なテーマに再生を行いました。