この民家は、つくば市北太田という古い歴史を持つ集落内にあり、ご家族の話しによると、1852年(嘉永5年)に同じ集落内にあった、本家住宅の建替えの際の古材を、譲り受けて建てたとの事。黒船来航より一年早い歴史ある建物を創建時から160年が経った今、親夫婦・子夫婦・孫夫婦・ひ孫の4世代8人の家族が暮らす現代住宅として再生しました。
設計の基本として、古民家の持つ素朴さや伝統的な技法を活かしながら、居住性や耐震性、省エネ対策を充分に備えること、県産材の杉・檜、漆喰等の自然素材を用いる等としました。
この家の特徴である和室三間(広間、8畳、奥座敷)は創建時の意匠を再現し、かつての横座と部屋は梁を現しにしたモダンなダイニングキッチンへ。漬物用の土間は孫夫婦のLDKとしました。外観は集落の景観に調和するように、創建時の柔らかな茅葺屋根をモチーフに、寄棟ムクリ屋根の蛤葺きとし、外壁は下見板張りに漆喰塗りとしました。今回の工事を通して改めて古民家が時代の変化にフレキシブルに対応できる工法であること、関東大震災、東日本大震災という二つの震災に耐えた粘りのある構造であること、古材に残る手仕事の跡や生活の香りが、現代の暮らしに懐かしさや温もりを与えてくれる事など、現代社会にとても大切な存在であることを認識しました。施主のM様より再生のご相談を頂いてから間もなく2年を迎えようとしています。この先五十年、百年と住み継がれて行くことを願ってやみません。
