時間と風景をつなぐ
S邸は常陸太田市の中心部に位置し、建物は道路から路地を少し奥に歩いた静かな場所にあります。33年前に施主の御父様(故人)が建てられた和風建築です。
経年劣化や使い勝手、冬の寒さ対策、室内の段差などの問題を抱えていました。解体も検討されたとの事ですが、ご家族の思い入れもあり、風景に馴染んだ外観は変えることなく室内を一新して欲しいとのご依頼をうけました。
ゆったりと時の流れる空間
リノベーションにあたってのご要望は、お気に入りのキッチンが設置できるようにすること。日常を離れ静かにゆったりとくつろげるリビング、お母様が過ごす日当りのよいお部屋を配置することでした。
今回の設計では床・壁・天井の素材に統一感と開放感を持たせ、合理的な動線で室内が緩やかにつながる流れを意識しました。
メインのリビングは、キッチンと合わせて26畳ほどのワンルームとし、ドイツ製のアイランドキッチンとどう調和させるかが鍵となりました。リビングの天井を3.5mまで高くしました。キッチンを配置するために既存の壁を撤去しましたが、構造上重要な柱があり、こちらは丸柱へと交換し麻縄を巻いて仕上げました。
チーク材を床材及び家具に使用し、壁は塗り壁としました。またゆったりとした時間をすごせるように、大谷石のステージにペレットストーブを設置しました。お父様が愛用されていた大きなスピーカーは、新しく設けた家具に組み入れました。
照明はシンプルにとのご要望もあり、間接照明をメインに計画しました。
回遊する空気感
キッチンからアールに切り取られた開口を入ると、ダイニングルームになります。その奥は石蔵への扉へと続きます。方形の段天井から自然の陽の光が、壁の大谷石に神々しい陰影を落とし、石蔵と一体となった空間は、異空間的な雰囲気を醸し出します。
南側の洋室だった部屋は、モダンな和室とし、北側の和室はクローク付きの落ち着いた寝室としました。この2室を緩やかに繋いだことで、回遊性が生まれ、季節や家族の変化に合わせてフレキシブルに使用でき、また光や風の通り道としての機能性も兼備えました。
日々の生活を上質な時間へ
時を経た家屋には、関わってきた人々の想いが随所に残っているものです。それぞれの気持ちを大事にしながら住み継ぐことを選んでいただき、そして設計者として関わる事が出来たことをありがたく思います。今回のリノベーションによって、何気ない日々の生活がより上質な時間へと変わっていくことを願っています。
