TX開通により園児数が増える中で耐震問題や老朽化、手狭になったこと等により園舎の建てかえが計画されました。保育園の将来像をどう見定め具現化し社会のニーズに答えていくか、園長先生はじめ職員の方々と設計者で様々に検討しました。結果、地域性を活かし自然環境との共生を実感できる特徴ある園舎づくりとなりました。
先生方との話し合いを通して、創造性豊かな子供たちを、年齢で区切るのではなく子供の個性や創造性を大切にした空間とすること、子供の健康や環境問題へ配慮すること、地域子育ての拠点としての機能性との一体化が大きな設計のテ-マとなりました。
●空間構成(可変的な空間)
各保育室は乳児を除き、壁で区切らず可動間仕切りとして、子供たちの多様な行動に対応したゾ-ン分けとして設計しました。第二の園庭といわれる室内はデッキテラス、曲がりくねった壁や太い杉の柱、狭いコーナ-など変化の多い空間で構成し、子供たちの創造力や情操を育む空間を目指したものとなっています。
●エコロジ-な園舎(木の空間)
環境保全、温もりのある空間、伝統技術の継承の面からこの建物は木造の在来工法で作りました。茨城県産木材(檜・八溝杉)を主に使用し、螺旋階段には建築空間のシンボルとして樹齢100年の杉丸太を使いました。
●エコ・マテリアル(建物は第3の皮膚)
子供達の身体に安全で安心な空間であること、自然素材であることに徹底し、塗料は天然の柿渋、壁・天井には珪藻土使用しました。創造性に溢れる子供たちに多様な木の空間で茨城の樹の世界観を肌で感じながら育って欲しいと願っています。
完成間際に東日本大震災という未曾有の災害に遭い、現場を確認するまでは非常に心配しましたが、一部ボードの目違い程度ではありましたが、壁の珪藻土も補修程度で済みました。それ以外は殆ど被害がなく無事完成にいたりました。
子供達が健康で元気に育ってほしいという願いで設計しました。テーマとして日本家屋の縁側的自然との一体感を取り入れました。季節感や自然(杉や檜)の温もりを小さいころから肌で感じて欲しいと思います。
南東から見た園舎の全景。日本建築の縁側的な意匠を取り入れ解放感と、建物の高さを抑え周囲の環境と馴染むよう配慮しました。カラ-コ-ディネイとは柿渋をベ-スにした配色で全体をア-スカラ-でまとめました。
保育室は檜の床と珪藻土の壁・天井です。建具は無垢の杉材で作りひまわり油で仕上げました。子供たちが床に寝転んでも、柱に頬ずりしてもすべて安全な素材です。保育室内の家具はすべてオリジナル製で可動式になっています。
(左)独立性を保ちながらも機能的な繋がりを持つ乳児室。体に安全で安心な空間である事に最も配慮しました。壁・天井に珪藻土、畳は減農薬畳に抗酸化リーバース材を塗布。壁の△窓の奥は杢浴室となっています、杢浴室で作業しながら乳児の姿を確認するためのものです。(右)地域の子育ての拠点となる子育て支援センタ-。多様なプログラムに対応できる機能性を持ち合わせています。
螺旋階段は樹齢100年の八溝杉の大木でつくりました。島名杉の子保育園の名前の由来も杉のようにまっすぐ育ってほしいとの思いから命名したそうです。塗装は柿渋を塗っています。
(左)ホ-ルからデッキテラス方向を見ています。中央にトップライトを設けています。(右)曲がりくねったパステルカラ-の二つの壁はギャラリ-ホ-ルの空間。子供たちの描いた絵や工作などを展示するスペ-スです。トップライトから陽の光が燦々と差し込みます。
(左)広縁空間です、吹抜けの高い天井から陽の光がさんさんと入ってきます。Rの壁の内部はトイレになっています。ここは乳児のエリアで、壁を薄いピンク色の珪藻土を塗っています。(右)子供たちがトイレに行くのが楽しくなるよ様に、木の温もりと曲線の優しさを用いました。
(左)できるだけ子供達が自然に木の素材感に触れられるように、杉や檜の風合いの残る仕上げを心がけました。床はひまわり油のクリアー、壁は防水・防虫・防腐作用のある柿渋の杏色としました。木本来のナチュラルな質感にまとまりました。(上)デッキテラスの天窓。軒の深い部分でも天窓から自然の光を取り入れられる。(下)壁は柿渋で塗装しました。なんとなく懐かしい雰囲気が漂う縁側的なテラス空間になりました。
島名杉の子保育園 松本奈保子 園長
開放的な間取りとあわせすべて木造にこだわりたてられた園舎は、贅沢な空間のみでなく何故か“ほっと”できる、常に暖かさに触れていられるような安心できる生活の場になっています。
木の香りは、情緒安定剤でもあり伸び伸びと育つ子どもたち。素足で走り去る足音は靴の音と異なり心地良い。床に寝ころび戯れる子の姿に、日々の生活の中で自然を肌で感じて欲しいと願う思いが建物からも感じられ嬉しく思います。