Concept

コンセプト

自然とともに育つ保育園づくりを目指して

" これからの園舎づくりへのメッセージ "

子どもたちの「家」をつくりたい

これまで多くの保育園の設計に携わらせていただきましたが、はじまりは偶然でした。というのも、もともと私は自然素材を用いた住宅をメインに手がけていたからです。きっかけは、ある保育園の園長先生からの依頼でした。園の建て替えのご相談を受けたのですが、私は当時保育園の設計実績はゼロ。お断りすることも考えましたが、園長先生は「私たちは施設ではなく、子どもたちの家をつくりたいのです。吉田さんが住宅でされてきたようにつくってくれればいいんですよ」と、言ってくださって。保育園と住宅には、じつは共通するものがあったのだと目から鱗が落ちましたね。つまり私が手がける保育園設計の根底には、いつも住宅があるんです。一人ひとりの存在を大切にできる場であること。「ここが自分の帰る場所」だと思ってもらえること。とくに保育園は、子どもたちが大切な時期を過ごす場所です。大人になったとき、彼らの人生の支えになる建物をめざしています。

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家庭的な雰囲気。 子ども達の使い勝手に配慮した木製の手作り家具、保育園の中に我が家のようなスケール感や素材感を用いることで、子どもたちが一日過ごす環境として、安心感や落ち着きを与え、楽しく快適に過ごすことにつながります。

胸を張って安全といえるものだけ

園舎には、自然の素材を用いたい。そこには、私の過去の悔しい経験と強い想いがあります。建築士として仕事をはじめたのは、バブル経済の真っただ中。建築ラッシュが続く中で建築業界も工期短縮が求められ、安価で使い勝手の良い化学物質が、建材や塗料等に使われた時代でした。しかし一方、それらの人体への影響についての検証は不十分なまま。私自身、現場で気分が悪くなることもあったほどです。やがて建材の有害物質に関して国の基準が定められましたが、建築が人に害を与えていたというのはとてもショッキングな出来事でした。それから見直したのが、自然素材。やはり昔からの木造の建物だと、人は快適に過ごせるんですね。国内外の研究からも、自然の素材のなかで人はストレスを発散しやすいということが科学的に証明されています。子どもたちが毎日多くの時間を過ごす園舎には、安心・安全だと胸を張っていえる素材だけを使う。これは変わらない信念です。

子どものために、大人の声を聞く

園舎は誰のものでしょうか。その答えは、ひとつではありません。園舎というと、子どもばかりに目が向きがちですが、本当は園長先生をはじめとした経営者、先生、保護者、そして地域の方々など、多くの大人が関わっています。だからこそ、園舎づくりには、子どもはもちろん、さまざまな大人の視点まで広く取り入れるべきだと思うのです。なかでも大切にしたいと考えているのが、現場で働く先生たちの視点。子どもたちに一番近くで接する大人だからこそ、先生たちにはいつも心身ともに健康でいていただくことが欠かせません。そのため、私が打ち合わせを行なう際は、保育の大きな方針を決める園長先生はもちろん、先生たちにもできるだけ参加していただくようにしています。たとえば、「事務作業の間も、子どもたちの様子が見えるとうれしい」という声から、部屋を区切らず見通しの良い間取りを工夫したり、「0歳児を預かるときは一瞬も目が離せなくて、精神的なプレッシャーが大きい」という声から、あえて子どもたちから離れて一人になれる休憩室をつくったりすることも。大人たちの声をしっかり聞くことが、結果的に子どもたちにとって良い環境をつくるための近道なのだと思っています。

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5歳児室と遊戯室が繋がっています。建具を閉じると独立した部屋に、開くと大きな空間となり多目的に活用できます。床材は県産材の桧です。(はなのわ保育園)

地域から愛され、長く残るものを

近年は、環境保護の意識を育てるといった観点からも木造の園舎へのニーズが高まってきました。とはいえ、どんな考え方でどう建てるかで意味合いは大きく変わります。私がこだわるのは、できる限り地元の資源を活かすこと。古くからの日本の住宅の考えを取り入れています。もともと日本の建築は身近な里山で木を集め、地元の職人によって建てられてきました。しかし最近は輸入素材が多くを占め、国内で木造に関わる人が激減しています。とくに職人の技術は、一度絶えてしまったら取返しがつきません。だからこそ、私は園舎づくりにおいても地域の協力を得て、土地の文化を守りたいと考えているのです。それは、園舎が地元に愛され、残り続ける力にもつながりますから。今後、保育園はますます〝選ばれる側〟になるといわれています。ただ自然素材を用いるのではなく、どんな想いを込めるのか。これからの園舎には、その視点も問われていくのではないでしょうか。

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地元の森林組合様の協力を頂き、群馬県産木材(杉・桧・唐松)を活用して建てました。また地域の職人さんの協力も頂くと共に、群馬県からも県産材活用推進の補助金を頂きました。(めぶきの森)

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