旧園舎の耐震問題や老朽化に伴い新園舎の建替えが計画されました。建設予定地に伺うと、高低差が約3mはゆうにある段丘状で、加えて敷地形状は複雑な上に、保育園用地としてはぎりぎりの敷地面積でした。先生方とプランの検討を重ねるなかで設計の方向性が定まりました。
温もりのある木造の園舎とする。周辺環境や周辺住民に配慮し高さを抑えた建物とする。自然の地形を活かした特徴あるプランとし、併せて耐震性及び耐火性の高い建物とすること等でした。
地形を活かすプランと構造
もとの地山の地形を崩さずに、段上に沿った形で3層構造のスキップフロアーとしました。各フロアーは緩やかな階段でつながります。また、地震時の建物の揺れを想定して、構造上平屋建てのA棟と、2階建てのB棟に分け、外観上は一体に見える建物としました。
のびのびとした空間と自然とのふれあい
プランは0・1歳児保育室及び3・4歳児保育室は、ワンルームの伸び伸びとした空間とし、将来の様々なニーズに対応できる可能性のある空間としました。また、子ども達が日常的に自然と触れ合えるように、各保育室の南側には広縁とテラスを設けました。縁側的空間である広縁は引き戸の開閉で室内の温熱環境を調整でき、半屋外的な空間のテラスは園庭と室内を緩やかにつなげます。
地域性を活かした木の空間
子供たちのココロとカラダの健康、また自然環境へ配慮し、構造は木造(ラーメン工法)とし、室内は檜の床、壁や建具に八溝杉など茨城県産木材を使用しました。
創造性に溢れ、感受性豊かな子ども達に自然の良さを肌で感じながら育って欲しいと願っています。
建物正面の全景。中央の玄関より左側が平屋建て(A棟)、右側が2階建て(B棟)。八溝杉を外壁材として使用。
遊戯室兼ランチルームは、檜の床に大きな柱や梁の見える木の大空間。子ども達は素足で木の温もりを感じられる。
5歳児室。読み聞かせの様子、天井が高く、明るい開放的な空間。
伸び伸びとしたワンルームの3・4歳児室。真ん中のロッカーで分けている。
光と風が通る5歳児室前の広縁。南側には屋根付きのテラスがある。
保育室から遊戯室へ移動する園児。高さの変化は子供にとってリズムを感じ、楽しみながら生活できる。
1歳児室より奥に0歳児室を見る。ワンルームの広々とした室内。右側は広縁で建具の開閉で部屋の大きさを可変。
0・1・2歳児室南側のデッキテラス。室内と連続して多目的に使える。
一時預かり室でのランチの様子。建具の開閉で多目的に使用できる。
B棟1階とA棟1階をつなぐ、緩やかな木の階段は、子ども達の遊び場の一つ。
風が流れ、木の香ただよう子供用トイレ
玄関ホールはベンチや掲示板(コルク壁)を設け、情報発信と交流の場とした。
つくしんぼ保育園 岩間和子 園長
木造の園舎は第二のふるさと
旧園舎の老朽化に伴い、建て替えのための移転候補地を吉田氏に見てもらったところ「ここに建ちますよ」と示されたのが、狭く見えた段差のある地形を、そのまま活かしたユニークなプランでした。
木造で床は檜、光を多く取り入れて欲しいとお願いし、その通りの園舎となりました。真冬に引っ越しをしたのですが、旧園舎と比べて暖かさが一段とちがいました。また、近隣への防音対策や日照の妨げとならないような設計をお願いしました。ご近所からは「思ったよりも音が聞こえないよ」と言ってもらえました。
人生の土台の時期を過ごす、ぬくもりあふれる木造の園舎は、第二のふるさととして、いつまでも子どもの心に残ることでしょう。