くすのき保育園は、TX線開通に伴い急激な都市化と人口増加が進む、千葉県流山市の流山おおたかの森駅から、西へ1.2kmほどにある大畔(おおぐろ)地区に位置します。敷地周辺は、畑や森などかつての豊かな農村風景が僅かに残る貴重な場所。ここに四季折々の自然と共に、子どもたちが健やかに成長し、やがて子どもたちの原風景となるような木造の保育園を計画しました。
敷地はこれまで広い畑であった一部を借用し保育園用地へ転用しました。敷地の南側と西側が市道に接道する角地にあり、朝夕は近くに新設された小・中学校へ通う子供たちの通学路にもなっていて、ここは新たな地域コミュニティーの核的な役割も果たしています。畑にあった数本の栗の木は土地の記憶として残しました。玄関へは西側道路からアプローチします。この位置から見える外観は、白い壁面に黒い屋根のモノトーン色で、どこか修道院的な凛とした簡素な雰囲気を感じます。入口で歩車道を分離し安全を確保。歩道脇には狭い中にも多様な樹種の植栽を配し、子供も大人も気持ちよく登園出来る環境づくりに配慮しています。
“こどもたちが木の空間で健やかに育ちますように“という、園長先生の願いに応えるべく、かつてこの集落にあった農家住宅のような、大家族を大屋根が包み込む大らかで温もりある空間づくりと、こどもたちが日々の生活を通して、楽しみながら自然を体験できるような野趣に富んだ木造園舎を提案しました。
また、SDGsの観点から、国産材の材木(JAS材)を利活用した在来軸組構法を選択し、大径木材の柱(杉:24cm角)及び梁・桁を現しとした、燃え代設計による木造2階建の準耐火建築物としました。
木材の主な産地は、福島県と茨城県にまたがる阿武隈山地。産地にほど近いいわき市内の製材所にて製材、乾燥、プレカット、まで一貫した流れで行い、その後は、地元で長きに渡り在来軸組構法に取り組んでこられた工務店の技術力をフルに活かして頂きました。
保育室内に入ると、大黒柱のような太い柱と合わせ梁が1.5間ピッチに列ぶダイナミックな空間を構成し、床の桧、天井の杉と共に森の中を歩くような空間が連続します。それはこどもたちの身体感覚に響き、免疫力の向上に繋がり、先生方も含めストレス低減にも繋がります。
また、天井に見える梁は保育室内からさらに南側の縁側方向に伸びて、外部の柱まで1.82m飛んでいます。夏は縁側から風が真っ直ぐ入って北側に抜けて行き、真夏の日射は深い軒下空間で遮ります。この縁側空間は0歳児室から5歳児室まで1・2階連続しており、こどもたちが日々自然との一体感を体験・経験できる場所であり、災害時のこどもたちの安全な避難にも有効です。また、縁側空間と深い軒の屋根形状が日本の民家的な意匠性を表現しています。
