Concept

コンセプト

自然とともに育つ保育園づくりを目指して

" これからの園舎づくりへのメッセージ "

COLUMN

#1

地域の風土を活かす
人・モノ・技術の
ネットワークづくりと
そのプロセス

園舎づくりにあたっては、「地域の木材で地域の子供たちを育てたい」との思いから、日本民家に習い地域の風土に適した自然循環型の建物としたいと考え、出来るだけ地域産木材及び地場産品を使うことを念頭において設計してきました。しかし近年は、地域産木材は外国産輸入木材におされ、山で働く林業家や原木を取り扱う業者や職人が 年々減少し、鉄骨やコンクリートに比べて安定した品質と供給が厳しいのが現状です。そこで基本設計の開始に合わせて、建設地に近い森林組合や製材所などへ伺い、伐採される樹種や供給量、納期、コストなどを調査します。また木材の乾燥や加工施設及び、プレカット工場との連携など品質管理も確認し、設計へフィードバックするやり方を取ってきました。そうする事で開園時期が絶対条件の下で、規模の大きい園舎を木造で設計することが可能になりました。
 例えば群馬県富岡市の 「めぶきの森」の例では、下仁田森林組合にお世話になり、杉・桧・唐松材の供給を頂き、構造材、造作材、建具、家具に至るまで地域産木材を活用することができました。また、東日本大震災で途絶えてしまった、群馬県産瓦である十能瓦を職人さんのネットワークで復刻することができました。地域の協力を得て園舎を建てることで、より地域と保育園との結びつきが強くなり、愛着を持って頂く事にも繋がっていくように感じています。

COLUMN

#2

先生の考え方で
園舎はここまで
変わる

「こんなに細かく打合せするんですか」と、依頼主の先生方からはよく驚かれるんです。もちろん園舎の設計にはある程度基準がありますが、大切なのは、どんな保育を実現したいのかということ。めざす保育によって、園舎のかたちは全然違ってきます。たとえば、時間割でトイレの時間が決まっていれば、一度に多くの人数が使えるようにある程度の便器の数が必要。でも逆に、自由にトイレに行くような園ならそこまで数は必要ないなど、さまざまな考え方があるのです。
 いくつか例をご紹介します。異年齢保育を採用している「島名杉の子保育園」は、子ども自身が遊びや過ごし方を自由に選んでほしいという考え方。そこで、お絵かき、工作、折り紙ができるそれぞれの部屋をつなげ、子どもが興味に合わせて自由に行き来できる構造にしました。一方「はなのわ保育園」は、幼児期の体づくりのために大縄跳びを取り入れている園。そこでホールの高さは実際に大縄をしてもらい、一般的な園よりかなり高めに設計しました。また、最近は子どもが指をはさむのを防止するドアを用いることが多いのですが、同園では「ふつうの家と同じように」という方針から、住宅用の普通のドアを採用しています。このように一つとして同じ園舎はありません。だから一件一件、ゼロから聞く姿勢を大切にしています。

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左|0・1歳児室。建具の開閉で3つのゾーンに分けられます。子どもの数や、様々な場面に対応可能です。
右|トイレが楽しくなるように、カーブの壁面やカラフルなタイルを用いました。

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左|開放的な縁側空間。園での生活の中で身近に自然を感じます。
右上|深い軒先空間にトップライトを設け、自然光を取り入れています。(島名杉の子保育園)
右下|地域の子育ての拠点となる子育て支援センター。お家のような居心地を大切にしました。

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左上|太い梁が空間を支えています。みんな素足でリズム遊びをしています。
左下|一段高い図書コーナー。床の高さを変えることで自由さと領域感を生み読書に集中できます。
右|大黒柱のある多目的スペース。椅子や机の配置によって子どもの多様な遊びを誘発します。

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左|2階のテラス空間。ここから直接外階段をつかって園庭へとつながります。(はなのわ保育園)
右|お絵かき専用の部屋です。年齢を問わず利用できます。(島名杉の子保育園)

COLUMN

#3

バイバイの
瞬間まで笑顔で
過ごせる秘密

[施設]ではなく、[家]のようなくつろぎを。これは、私が保育園の設計で大切にしていること。最近は共働きの家庭が増え、長いと保育園で1日12時間過ごす子もいます。だからこそ、帰る時間まで楽しい気分でいられる園舎づくりを心がけています。たとえば登園時。「南高野保育園」は、太陽と虹をイメージした高い天井の入口をシンボル的にデザイン。子どもたちをあたたかく迎える雰囲気を演出しました。
 食事の時間の工夫もあります。 「めぶきの森」では、午前のおやつを縁側でいただきます。四季を感じることで会話が生まれ、食べる時間そのものを楽しめるようにという想いからです。昼食は、子どもと栄養士さんの目線が合うカウンターから給食を提供。調理室は入口から中が覗けて、料理をつくる人との距離を近く感じられるようにしました。また午睡の時間、とくに生まれたばかりの赤ちゃんは静かな環境が必要です。そのため、「野草舎森の家」では幼児用に周りの音を遮断する専用の小さな部屋をつくりました。また、最近は読書の習慣を子どもの頃から身につけさせたいというニーズも増えています。そこで「あお学園」では、好きな時間に本を読めるように小さなライブラリースペースを設置しました。過ごす時間を想定した空間づくりは、子どもの自発的な成長もサポートします。

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左上|給食を受け取るカウンター。(めぶきの森)
左下|午前のおやつを食べる縁側。(めぶきの森)
右|太陽と虹をイメージしたエントランス。(南高野保育園)

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左|ガラス戸で囲った空間は、赤ちゃんが静かに安眠するための場所。(野草舎森の家)
右|小さな円形のライブラリー。(あお学園)

COLUMN

#4

土地に馴染む園舎は
地域が守ってくれる

じつは依頼を受けても、すぐに設計に取り掛かることはありません。まずは園舎が建つ場所に足を運び、どんな歴史があり、どのような方が住んでいるのかを実際に見て、肌で感じることを大切にしています。なぜなら、園舎はその地域に後から建てさせていただくもの。いわば新参者です。だからできるだけ謙虚に、土地に馴染む建て方をしたいと考えているのです。いつか地域にとってあたり前の風景になり、人々から自然と「残していきたい」と思っていただける存在になること。そんな、ずっと大切にしてもらえる園舎をめざしています。たとえば、「めぶきの森」の屋根には、園のある群馬県富岡市でかつて製造されていた十能瓦の採用を試みました。しかし、震災によって地元で最後の窯が崩壊。偶然にも友人の瓦屋さんが型を持っていたことから復元を果たすことができ、地域の歴史を語り継ぐ園舎が完成しました。
 また「野草舎森の家」では、敷地横の道路が鹿島神宮の古道であることをヒントに、神殿に向かって大きく開かれたカーブを描く園舎の形状に。じつはこれが、自然光を集めながら風通しも良い、最良の方法でもあったんです。もともと周辺は空き地でしたが、園舎ができてからは住宅が増え、にぎやかになってきました。何だか地域から受け入れてもらっているような気がして、嬉しいですね。

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群馬県富岡市のめぶきの森

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#5

手づくり家具の
使いやすさと
いい保育の関係

すべての園舎に共通してご提案することがあります。それは、「ロッカーはオーダーでつくりましょう」ということ。というのも、見た目の好みや価格だけで合わない既製品を選んでしまうと、あるべき所にモノが収まらず余計な作業が発生するから。結果的に、保育の質も低下させてしまうのです。それぞれの園で持ち物やバッグの大きさも違いますから、私の場合、ロッカーのサイズはそれらをすべて測ってから決定。かさばる衣類の収納も、汚れた服を園で洗うのか、着替えはどう対応しているのかまで伺って最適なものを提案しています。オーダー家具の制作例は他にもあります。たとえば、布団の収納は押入が一般的ですが、「南高野保育園」では先生たちに作業のしやすさを伺って引き出し式の収納に。「野草舎森の家」では衛生面での要望を受け、通気性の良い円形のタオル掛けをデザインしオーダーしました。ちなみに同園では、子ども用のイスも特注で製作。家具職人さんが木材や仕上げのオイル選びにまでこだわって丁寧につくりあげました。園長先生も、「つくり手の顔が見えるのは安心。使っている間も見守られているようなあたたかさがあります」と、気に入ってくださっているようです。園舎の考え方に合わせて家具をつくることは、めざす保育を実現するためにも欠かせないポイントだと思います。

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左|ロッカー(野草舎森の家)
右|引き出し式の布団入れ(南高野保育園) 

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子ども用のイスとテーブル。共にスタッキング式。(野草舎森の家)

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左上|子ども用キッチン(野草舎森の家)
左下|温かみのある洗面カウンター(野草舎森の家)
右|円形のタオルハンガー(野草舎森の家)

木の園舎でのびのび豊かに育つ

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